大悲庵のブログ

高野山真言宗大師教会

映画『生きる』と『追弔和讃』

ご葬儀のお通夜で私は追弔和讃という讃仏歌を唱えさせていただきます。この追弔和讃は「人のこの世は長くして、変わらぬ春と思えども」という歌詞で始まる亡くなった方を追悼する曲です。
高野山大学学生時代、ご詠歌の詠監という最高位の先生に指導を受けた時、毎週授業の後の復習会で教えてほしい曲を各自リクエスト出来る機会がありました。『追弔和讃』をリクエストした時のこと。先生は少し考えてこう仰いました。
「『生きる』という映画を見たことがありますか?」

予想の斜め上をいく先生の言葉に戸惑い、頭の中は??だらけです。私は見たことがなかったので、さっそく見てみました。映画のクライマックス、主人公の志村喬さんが涙を流し歌います。「いのち短し、恋せよおとめ、朱き唇、褪せぬ間に」地鳴りのように低い声で歌う姿を見て、主人公に対する共感で胸がいっぱいになりました。
御詠歌の先生は何を仰りたかったのか。追弔和讃は精一杯生き切った故人様に寄り添い唱えるものでなければならない、さらにはそれが私たち僧侶の使命であり、また僧侶にとっての生きがいでもあるのだと教えていただいた気がします。うまく唱えるためのテクニックを知りたいと思っていた自分はなんて浅はかであっただろう。

その後リメイクドラマも舞台版も見ましたが、綺麗すぎるというか・・やはりこの『生きる』は黒澤明監督、志村喬さん主演の映画であればこそ、自分の中に多くを残したのです。本日、CS放送で放送されます。

(イギリスでビル・ナイ氏主演でリメイクされ、まもなく映画が公開です。好きなイギリス俳優さんでもあり、見てみたい)